COLUMN

Women in Paris Vol.13
Mari Shimmura(3/4)

初めて行ったインドで、新村さんは不思議な体験をしている。「朝起きて、ガンジス川のほとりを散歩していたら、後ろからついてくる日本人がいたんです。振り向いて見たら、その前の夜、夢の中に出てきた友だちだったんですよ。もちろん、お互いその時インドにいるなんて知らなかったのですが、インドってそういうことが自然に起こる場所って感じがして、なんとなく、自分はインドと気が合うのかな、って」。フランスへの移住を決める前、実はインドにするか、フランスにするか悩んだことがあった。「知人を通して紹介してもらった、インドに住むご夫妻に『インドとフランスとで悩んでいるんですが、インドの生活はどうですか?』と訊ねたら、若い人がわざわざ選択するような国じゃない。海外に住みたいなら先進国にしなさい、ってアドバイスをいただいて。インドには現実から逃れるように流れ着いた日本人がいっぱいいて、ヒッピーみたいになっていて、自分もアシスタント時代の“理不尽”から逃げるためにインドに行って、半分そちらの世界に足を踏み入れかけていたんですよ。でもそっちへ行っちゃったらやばいな、って自覚はあって、そのご夫妻にきっぱりとやめた方がいい、と言っていただけて本当によかったです」


パリへの移住の足掛かりは、まずワーキングホリデーだった。ワーキングホリデーが取れる国が当時限られていたという事情もあるが、大学生の時一度行ったこともあって、なんとなくフランスなのかな、という勘が働いた。ブラジル人フォトグラファーでパリを拠点に活動する、セバスチャン・サルガドの作品に心を動かされたということも理由としてあった。「ワーホリの1年間で移住への下地を作ろうと、なんでもやります、って感じで、ノーギャラで写真を撮ったり、人脈作りに励みました」。ワーキングホリデーが終わって一度日本へ戻り、1年~1年半ほどかかってビザを取得。来年で移住してから20年になる。「インドにパリはないけど、パリにはインド人街がある(笑)。都会でありながら田舎で、先進国だけどどこかゆったりしている。カフェに行けば仕事してるのかしてないのか分からないおじさんたちがずっとコーヒー飲んでいて、そういう人がいるとなんかちょっと安心できる感じもあります。仕事で失敗したとしても、どうにかなるか、と思わせてくれる穏やかさ、おおらかなところがいいんですよね」

パリでも、今住んでいる10区はとりわけいろんな人種が混ざり合って共存しているのが気に入っている。

移住してすぐの頃は本当に貧乏で、レストランなんて行ける余裕もなく、コーヒーはカウンターで立ち飲み、牛乳はなし。それでもお金がないなりに楽しめる、そういう側面もパリに惹かれた理由だ。「レストランでご飯を食べている人が羨ましかったし、街を歩いていると豪邸が目に入って、自分ももう少し人間らしい暮らしができるようになりたいな(笑)とは思いました。オーストラリアで知り合った人たちはサーフィンとかのんびり好きなことをやりたい、って感じだったけれど、パリでは貧乏でも目標に向かって生きている、同じような志を持っているたくさんの人がいることも励みになりました。成熟した文化があって刺激的で、街中にそういうマインドが溢れている。他の国にはない何かがあるところがパリの魅力ですね」

来たばかりの頃、カフェのカウンターでコーヒーを一杯飲むのが贅沢な時間だった。