COLUMN

Women in Paris Vol.11
Mikako Ishii(3/3)

イタリアで友人と二人で始めたブランドを畳み、一人パリへ渡ってリスタートした石井さん。ステュディオ・ベルソーに在学した2年間だけでは十分な語学力は身に付いておらず、フランス語もおぼつかない状態での出発だったが、イタリアでの経験を生かし、友人たちの助けも借りて、展示会で発表できるところまで漕ぎ着けた。パリ市内で調達したヴィンテージの生地や、日本製のオーガニックコットンなどを用い、使える人脈を総動員してコレクションが完成する。「この頃の日本はセレクトショップに勢いがあって、かなり多くのバイヤーさんがパリに買い付けに来ていました。それに、小さいブランドが発表できる場も、売る場所も今よりあったように思います」と話すように、石井さんにとっては世の中の状況的にも追い風が吹いていた。ギャラリーラファイエットなど、いくつかの大手との取引も決まったタイミングでビザを申請、ここでついにパリに根を下ろすことになる。

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出産後、オーガニックコットンを使ったベビーコレクションもスタートさせた。
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自身のコレクションを着る石井さん。「30~40代のお客様が多いので、私が着用してご紹介することで、より身近に感じていただけるのではないかと思っています」

その後ブランドが軌道に乗り、一時はマレに大きな店を構えて、数人の従業員も雇っていたが「洋服作り以外にやらなくてはならないことがたくさんあって、すごく大変で、体調も崩してしまったんですね。その時、やっぱり自分はクリエーションに集中して、納得できる洋服を作るべきだと思ったんです」。2015年、パリでイスラム過激派によるテロが起こり、石井さんが店を構えていたエリアはそれまでの賑わいを潜めるようになってしまった。このことも後押しとなって、店を閉めて別の場所にアトリエを移した。

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幸運にも自宅下に空いたスペースに、つい先日ショップをオープン。
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最新のコレクションでは、日本の刺繍工房とコラボレートした。

長く海外に暮らす中で、今改めて感じるのは、日本の物作りのクオリティの高さだと話す。「自分のブランドを通じて、そのよさをパリから発信していきたいなと思うようになりました。今はフランスのエレガンスと日本のデザイン、両方の文化を融合させて、そこに生まれる独自の世界観を追求しています。それと同時にお客様には温かみと遊び心に満ちたコレクションをお届けしたい。コロナ禍の後、家で仕事をする方も増えて、肌に触れる部分の素材に関してこれまで以上に気にかけるようになって、それを機にブランド名も“fabrique by AMBALI”と改名したんです」。ニューヨーク時代の友人たちとは交流が続いていて、コロナ以前は展示会やトランクショーでの発表も兼ねて定期的に渡米していたが、ここ数年はコロナ、そして出産したこともあって足が遠のいていた。もう少し子供が大きくなったら、それもまた再開したいと考えている。「パートナーはセラピストなのですが、二人とも会社員ではないということで、保育園がなかなか決まらなかったんです。ようやく預けられるところが見つかって、自宅の下に店も完成したので、これからはもっとクリエイティビティにこだわって、自分が納得できる洋服を作っていきたいと思っています」