COLUMN

Women in Paris Vol.8
Sawako Ishitani(4/4)

2010年、自身のブランド「JACCO」を立ち上げた石谷さん。ちなみにこのブランド名は、石谷さんの幼い頃のニックネームに由来する。「小学校3年生くらいの頃、友達と冗談を言い合っているうちに、私のニックネームがJACCOになっていました(笑)。自分でも気に入っていて、それをブランド名にしたのですが、実は自分のブランドを作るなんて考えたこともなくて、むしろ周りでやっている人たちを見て、自分には無理だ、と思っていました。フリーになった頃に父親を亡くしたのですが、それが少なからず影響している気がします。父は自分で会社を立ち上げてやりたいことにチャレンジしたり、人生においてずっと冒険をしている人だったので、自分もやってみようかな、と」。企業で働くことに限界を感じていたのも理由の一つだという。「自分だけでやっていたら体験できないだろう世界を見せてもらえたことはとてもありがたかったのですが、会社の規模が大きくなればなるほど、一つのことを決定するのにもすごく時間もかかるし、動きづらいと思ってしまって。もう少し自由に何かやりたいな、という気持ちが強くなりました」

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オリビエ・デュポン著『The New Jewelers』に「JACCO」が取り上げられた。
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その誌面。ブランド初期はロマンティックでカラフルな作風だった。

これまでのキャリアで培ったスキルをフルに生かして、コレクションの構成を考え、生産してもらう工場へコンタクトをとり、やったことのない営業面については、先に起業していた友人にアドバイスを求めた。「とにかく商品を見てもらえるように、まずは展示会に出しちゃおうと言われて、ブランド名が決まると同時に出展しました。私の作ったものに関しても、ここをこうすれば絶対上手くいくよ、なんていろいろ助言してくれて」。企業に所属していれば「一度社に持ち帰って」となどと言えるが、自分一人で決定し、それに責任を持たなくてはならない。ブランドを立ち上げてから13年の間に少しずつ、自ら周囲との繋がりを求め、交渉を重ねて、世の中を渡っていくためのスキルを身につけた。そんな今、「JACCO」は転換期に差し掛かっているという。「私自身が40代も後半になってきて、今の自分が身に着けたいものを作りたい、という気持ちに変わってきました。JACCOだから作ることができるユニークなものもあるとは思うのですが、それよりもっとノーブルな素材を使ったハイジュエリーを新しいブランドで提案したくて、今、新プロジェクトに向けて準備中です」

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「JACCO」のカタログのビジュアルは、写真家であるパートナーとタッグを組んで作成。

パリに流れ着いて20年あまり。フランス人の写真家のパートナーと、二人の子どもと暮らす現在は、子ども中心の生活だという。「子どもとの関わり方、時間の持ち方はもちろんそれぞれの家族によりますが、うちはできるだけ子どもとの時間を割きたいという考え方なので、今はガッツリ仕事に向き合うのはなかなか難しいですね。お迎えや習い事の時間がすぐにやってきて、一日があっという間です。パートナーは子育てに積極的に関わりたい人なので、率先して宿題を見てくれたり、子どものお友達も一緒に連れて出掛けてくれたり。なるべく家族でいろんなことを共有して楽しく過ごそう、というスタンスで生活しています」。また、このところの休日はもっぱら、コロナ禍の間に購入した別荘へ足繁く通ってリフォームを進めている。北フランスの海沿いの小さな街で見つけた、廃業したパン屋さんだった建物で、一部屋一部屋コツコツやっているという。さらには、新ブランド立ち上げに向けて、若い学生に混じって3Dデザインを学んでいるという石谷さん。子育て、仕事、そして新たな学びと、三足のわらじを颯爽と履きこなしながら、それぞれのミッションに真摯に向き合っている。

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北フランスで見つけた、パン屋さんだった建物を購入し、バカンスの間は改装に勤しんでいる。海まで歩いて2分、心身ともにリラックスできる場所。
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「子どもたちは愉快痛快な存在!」。パートナーと家事は半々に分担するも、30分刻みでしか仕事ができない日も多い。