COLUMN

Women in Paris Vol.7
Momoko Honda(3/4)

卓越した手工業、技術を有する企業にフランス政府が発行する認定書「EPVラベル」を持つセントジェームスは、本田さんにとっては職場であると同時に、ブランドに脈々と受け継がれている伝統技術を学べる場所でもあった。「リンキングなんてやりたがる人があまりいないので、なんでこんなことを知りたいの?と言われながらも、ここでもいろんなことを教わりました。会社はノルマンディにあるので、夫とともにパリからノルマンディに引っ越したのですが、田舎なのでアジア人なんていないですし、いろんな意味で珍しがられましたね」。働きながらも学びを深めることを目的に、ここで5年は働こうと決めて移住したが、ちょうど5年が経った頃、コロナによるパンデミックが始まったことも重なって、辞めて再びパリへ戻る。

セントジェームス本社勤務時代
セントジェームスの本社。
セントジェームス退社時に贈られたスカーフには「ミスリペア」と描かれている。

以降、本田さんは「ニットのスペシャリスト」として、さまざまな場所で多くの人にその豊富な知識を還元している。国が運営するテキスタイル協会からの要請で、フランス中にある企業や工場で技術指導に携わったり、モードの学校で教鞭を取ったり。こういった学校でニットを専攻する生徒はニットデザイナーを目指している人が多く、かなり本格的でレベルの高い作品を作るため、卒業コレクションの制作を手伝うこともあるのだとか。テキスタイル協会というのは、本田さんのように特殊で高い技術と知識を持った人材を擁し、フランスの産業を守り、伝統技術を絶やさないようにする活動をしている。「これまでは会社の中で技術が後継者へ引き継がれていく流れが確立されていたのですが、その形が今、完全に崩れてしまっているんです。あと、こういった産業は人口の少ない地方が拠点になっていることが多く、入ってくる情報も少なくて孤立してしまうようなところがあって、そうすると生産性も下がってしまうんですよね。なので外部から人を入れて刺激を与えることが、よい方向へ促す力になるという部分もあります」

オランダ テキスタイルミュージアムでリペア技術指導
ダミアンさんが勤めるオランダのテキスタイルミュージアムで、リペア技術指導をする本田さん。

実は中高生の頃、教師になりたいと思ったこともあったという本田さんだが、フランス人相手に物事を教えるというのはなかなかに大変なことも多いようで「日本人って若く見られるので、その仕事を何十年もやってきたようなベテランの方にははっきり物申す姿勢がないと絶対になめられちゃいます。自分が持っている技術や知識に信念を持って、かなり強く出ないと飲み込まれちゃうんですよね」。一人一人習得のリズムも違えば、もちろん性格もそれぞれ。企業側からは従業員の才能や的確なポストを見極めることも求められるので、技術や知識の伝承だけでなく、従業員一人ずつに関してのレポートも提出しているという。「この仕事で派遣される期間はだいたい1週間なのですが、最後に企業のトップと会議をするんです。各従業員の適性を見極めて、できるだけ全員が長所を伸ばして活躍できるように、自分が滞在した1週間で感じたことを伝えます。外部からきた人間だからこそ俯瞰で見られる部分をアドバイスすることもできますね」

 

the first photo by @Lara Ayvazoglu