COLUMN

Women in Paris Vol.6
Asami Maeda(2/4)

東京でヘアメイクアーティストのアシスタントを経てパリへ渡った前田さん。ヘアとメイク、両方を一人のアーティストがやるものだと思っていたが、別々に分かれているということをパリに来てから初めて知る(ちなみに最近は日本でもヘアとメイクは別々であることが増えた)。「憧れていたヘアアーティストのチームに欠員が出て、人を探しているよと連絡をもらったんです。私は最初、ヘアとメイクが別々のチームだってことも分かっていなかったし、しかもどちらかというとメイクが好きだったので迷ったんですが、ヘアならこれまで身につけてきたテクニカルなことがより役に立つかもしれないなと思って、やってみたい、って返事をしたんです」。なんとその仕事は、ラフ・シモンズがディオールのディレクターに就任して初の、2012年秋冬オートクチュールコレクション、ヘアチームのヘッドはグイド・パラウ!「センターパーツで、モデル全員のレングスを合わせたストレートヘアだったのですが、テクニック的にはこういうシンプルなのが実は一番難しいんですよね。もう手が震えてしまって、今思えば当たり前なのですが、全然役に立てませんでした(笑)。会場がお花で埋め尽くされるという演出で、バックステージに入った瞬間、花の香りがガツンときたことはよく覚えています」

2015年ディオールクルーズ グイドチーム
2015年、ディオールのクルーズのショーにて、グイドのチームのメンバーと。

と言いながらも、以来、グイドのチームからたびたび声をかけられるようになり、その後さらなるチャンスを掴む。「グイドと組んでいるメイクアップアーティストのパット・マクグラスのヘッドアシスタントが日本人で、その方から“日本人のヘアアーティストでアシスタントを探している人がいるから、コレクション以外の時期にその人についてみない?”という話をいただいて。ニューヨークベースのakki shirakawaさんという方だったのですが、当時『ヴォーグ・フランス』の編集長だったカリーヌ・ロワトフェルドとよく仕事をしていたので頻繁にパリに来ていて、ヨーロッパのアシスタントとして雇っていただくことになったんです」。最初、アシスタント、と聞いた時、ここからまたアシスタントか、という思いが一瞬頭をよぎったものの、結果、彼についたことは大きな影響となり、前田さんはヘアアーティストとして大きく成長を遂げる。「エクステやウィッグの使い方などテクニカルなことはもちろん、クリエーションに関しても、本当にたくさんのことを教えてもらいました」。ヨーロッパアシスタントとしてついてから3~4年がたった頃、徐々にakkiさんの軸足がニューヨークへ移ってゆき、前田さんは2018年に現在も所属する事務所「Wise & Talented」の一員となって完全に独り立ちを果たす。

2015年ヴィクトリアズシークレット
こちらは2015年、ヴィクトリアズ・シークレットのバックステージ。一番左が前田さん。

「今もファッションショーの仕事が一番好きなんですが、仕事の内容も最近は変わってきました。グイドのチームを離れたのが2017年で、その後は少しずつ、フロントローに座るセレブリティのヘアのお仕事が増えてきましたね」。ディオール以外にも錚々たるビッグメゾンのショーを手掛けるグイドの現場では、数えきれないほど多くの貴重な経験をしたと話す前田さん。「もちろん一番最初のディオールのショーはとてもよく覚えているのですが、ドルチェ&ガッバーナのクルーズコレクションもすごかったです! カプリやシチリア、ポルトフィーノ、ヴェネチア、いろんなところへ連れていってもらったし、とにかく豪華。あとはマーク・ジェイコブスの最後のルイ・ヴィトンでしょうか。バックステージでケイト・モスがたまたま私の前に座った時には身震いしましたね。それに、デザイナーが辞めるということは、大げさに言えば時代が変わるということですし、その瞬間に立ち会えたことも感慨深いです」

2016年1月ハイダー - コピー
2016年、ハイダー・アッカーマンのメンズコレクション会場にて、背伸びしてタッチアップ。