COLUMN

Women in Paris Vol.5
Ayumi Togashi(2/3)

スタージュが終わってから、フリーランスとしてクロエからイラストのオファーがあったことで「自分の絵が仕事になってギャラをいただけるんだ」と確信、これを機にイラストレーターの道を進むことになった冨樫さん。以降、もう20年近くパリに住み続けているが、パリへの憧れのようなものは最初から特になく、ときめきもなかったのだそう。「一番最初に住んだ外国がイギリスで、その時は目に入るもの全てが素敵に思えたのですが、パリへ来た時は不安だらけで失恋したばっかりで、そういうことも影響してるかもしれません。しかも学校があるのが10区で、メトロの駅の付近は特に治安が悪くて怖かったんですよね。この辺りには絶対住まないぞ、と思っていたのに、今(北接する)18区に住んでます(笑)」

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冨樫さんが所属しているエージェント「Agent & Artistes」のクリスマスポップアップ展示会の様子。パリの書店にて開催された。

仕事に煮詰まったら、近所へ買い物へ行って気分転換したりするが、ついいろんな場所へ寄り道してしまい、結局何も進まないまま一日が終わってしまって落ち込むことも。アイデアを求めるときには図書館や書店、美術館のショップなど、本がたくさんあるところへ行ってみたりする。「情報量がすごくて刺激的ですね。学生の頃から図書館へ行っていいものを見なさい、ってよく言われましたし、そういう場所でのリサーチが優雅で理想的だと思います。なのですが、だいたいそういう時は締め切りが目の前に迫っていて心に余裕がなくて、基本立ち読みだから疲れますし、家に帰ってきたら何も進んでいない仕事が残っている。こんな踏んだり蹴ったりの日常が、私のインスピレーションソースなのかもしれません(笑)」

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上はイギリスのフレグランスブランド「ペンハリガン」の、下はパリの百貨店プランタンのパッケージ。

クロエでの研修時代、目に留めてもらいたくて描いた絵は「クッキーを作っているおばさん」。『魔法使いサリー』のサリーちゃんが好き、でもどっぷり浸かったカルチャーはなく、何から影響を受けて絵を描いているのかあまり分からない、と、ふんわりとした口調で話しながら、泣く子も黙る(!)有名メゾンの仕事を手がけて実績を上げている。「仕事の依頼がきたら、いつも頭を絞りに絞っています。仕事としてのお題を頂かないと“泳げない”し、締め切りギリギリまで引っ張って、追い詰められないとできないタイプ」と自己分析。イラストレーターとしての実力はもちろんだが、捉えどころのない、でも何ともチャーミングな人柄も、オファーが絶えない理由なのかもしれない。

植物交換のイベント「TROC PLANTES」のポスターのイラストも手がけた。
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実際のイベントの様子。「いろんな植物の知識を交換し合えるのが刺激的なんです」