COLUMN

Women in Paris Vol.12
Akiko Inoue(4/4)

結婚を機にパリへ渡ってから17年、それ以来もずっと、アンティークを販売したり、手刺繍によるオブジェやアクセサリー作りを生業とし続けている井上さん。「アパレル会社を辞めたあと、失業保険を注ぎ込んでアンティークを買い始めたんですけど、ビジネスにするには元手が足りなかったので、実は両親に借金したんです。返ってこないものだと思われてたみたいなんですけど、どんどん利益が出て、ちゃんと全部返済してるんです。スタートしてから一度もマイナスになったことはないんですよ」。途中、結婚やそれに伴う移住、出産などもあって、ペースダウンすることもあったものの、娘が生まれる前には、パートナーの友人のつてでアトリエを持つほどになった。「ニコラっていう、娘のゴッドファーザーであり、私がフランスに来て最初にできた友達と出会ったことで、さらに大きいアトリエに移ることになって、ずっとスペースをシェアしています。彼の人脈がすごくて、アトリエでは作品を作ったりアンティークを販売する以外に、時々、ニコラが見つけてきたアーティストと一緒に展示会をやったりもしています」

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子どもの誕生日パーティの様子。「日本とかサーカスとか、毎回テーマを考えて、娘一人だった時は凝ってました…」。

現在、パートナーとの間には12歳の娘と5歳の息子がいて「娘はかわいそうなんですけど、息子は圧がすごいというか、赤ちゃんの時から大げさ(笑)で、息子が中心の毎日です。たぶん私に似たんだと思います(笑)。だけど娘は息子の面倒をすごくよくみてくれて、息子は娘のことは大人だと思ってますね。仲がよすぎて、いまだに娘が息子をお風呂にも入れてくれたりするから、ちょっとそろそろやめたら、って言ってるんですけど(笑)」。子育てで多忙な日々の中でも、子どもたちの誕生日には元パティシエの腕を振るってケーキを作ったり、週に一回は友人を家に招いて料理を振る舞ったり、最近は夫婦で金継ぎを始めたという。「料理は好きで、レシピは見ますけど、自分なりにアレンジして作ったりしてますね。最近はイカのファルシが自分の中でヒットです。子どもたちには出しませんよ、こんな凝った料理(笑)、お客さんのために作ります。買い物に行って食材を見てるうちにレシピを思いつくんですよね」

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「私はキャンプが大嫌い、夫は大好き(笑)。3年前の夏休みにはテントや家財道具などまるで夜逃げのように積み込み(笑)、4週間かけて旅しました」

パートナーはかつて漫画家を目指していたが、今はパリ植物園付属動物園の博物館にプログラマーとして勤務。最近は再び絵を描いていて、つい先日までパリ市内で展示も行ったのだとか。アンティークを介して、いわば運命的に出会ったクリエイティビティ溢れる二人と、可愛い子どもたちとのパリでの生活。他者からはそんな風に映るであろう自身の見え方について、本人は至ってフラットだ。「みんな、パリって素敵よね、と言うけれど、17年住んでも、いまだにこの街がなぜそんなにいいのか分からない。私は、日本もフランスに対してもあまり自分の国だっていう感覚がないんです。私のアトリエがある界隈とか、住んでるパリの郊外とか、そこは“居場所”になっているという実感はあるんですけど、別に素敵なところではない(笑)。パリで暮らしてるとしょっちゅう罵声が聞こえてくるし、道には犬のフンが落ちてて汚いし、イライラしっぱなしだけど、どちらかというと日本よりは居心地はいいです。日本だと出る杭は打たれるって感じがあるけど、フランスはあくまで個人主義だから、それは肌に合いますね」。器用な手先と天性のビジネスセンス、有り余るほどのバイタリティ、そして「どうやったら相手が笑ってくれるかな、とか、そういうことを考えて、努力して」手に入れたというコミュニケーション能力をいかんなく発揮して、ついに居場所を見つけた井上さんなのだった。

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パリ11区に構えているアトリエのウィンドウ。ブロカントコーナーがあって、作品作りもここで行っている。