COLUMN

Women in Paris Vol.10
Kaori Ai(4/4)

自分の店を開きたい、という夢を持ち続け、ついにそれを叶えたのが3年前のこと。「忘れもしないのですが、2020年2月24日、物件に入居するというサインをしたんですね。そしたら3月17日、外出禁止令が出てしまったんです。本当は5月には工事を終えてオープンしたかったのですが、結局7月の半ばくらいになってしまいました」。コロナウィルスが全世界で急激に蔓延し、フランスでは厳格な外出禁止令が出たそのタイミングでのことだった。鼻が効く富裕層の人々は、外出禁止令が出る直前に荷物をまとめて車でパリ市内を脱出していったのだという。「そんな様子を私はお店の工事に来てくれていたおじさんとぼーっとみてました。家を出ちゃダメなんだけど、サインしちゃったから家賃も発生するし、早く工事したくて、こっそり自転車で家から通いましたね(笑)。だけど結果的にはゆっくり準備できましたし、その間家族と一緒にいられる時間も得られたのでよかったです」

家族全員絵を描くのが好き。それぞれの、その時々の心情が反映されていて面白い。

自身の店をオープンする前に勤めていたサロンで、どんな風にビジネスとして成立させるかが見え、自分ならこうするのに、というアイデアもどんどん湧き出していた。「今から7、8年くらい前、フランスではビオや有機、体にいいとされるものがたくさん出てきていて、そういうものを取り入れたらどうかとサロンのオーナーに提言したのですが、受け入れてもらえませんでした。それなら自分で、自分らしいスタイルでやってみよう、と思うようになったんです」。外出禁止令が解けたタイミングでオープンした「aiguen」には、その間美容院に行くことができなかったお客さんが「わーっと波のように」押し寄せた。「もっと早くやっていればよかったのに、と思うほど、自分の店を持ってよかったです。そして今後も継続してお客さまに来ていただけるよう、もっと素敵な何かを用意しておかなくちゃと思っています」。そのために今は、オリジナルのプロダクトをリリースするための準備に奔走している。

グレーで曇り空のヨーロッパのイメージは昔の話? 「最近は晴天続きで、自然環境の変化はフランスでも強く感じます」

11歳と8歳の二人の子どもを育てながら週に5日店を開け、休業日にもやらなくてはならないことがたくさん。グラフィックデザイナーである夫と家事を分担しながら、日々の生活を切り盛りしている。また、子どもたちには日本語を話せるようになって欲しくて、そのために時間とお金を割いて学校に通わせているという。「その分、夏のバカンスは家族といる時間を満喫します。今年は1ヶ月半、店を閉めました。日本に帰って、夫の両親がいるコルシカに滞在し、あとはバロアというイタリアとの国境に近い山でトレッキングをして、最後には友人が民泊をやっているブルターニュで過ごしました」。今後の目標は2店舗目を出すこと。フランスという異国の地で幼い頃からの夢を叶え、公私共にエネルギッシュに、前へ前へと進み続けている。