COLUMN

Women in Paris Vol.9
Hiroko Shiraishi(3/3)

子どもが生まれてからは、基本的に家庭のことを第一優先にしていたが、前職での人との繋がりから、年に4回開催されるメンズとウィメンズのパリファッションウィークの時期には、日本から来るブランドの仕事を手伝っていた白石さん。「その度に日本の方達から、おいしいお弁当やケータリング、どこかない?って聞かれていたんです。だけど紹介できるところが意外と少なくて、であれば自分でやってみようかな、とある時思い立って」。まずは試作品をパリ在住のコーディネイターや日本から来ていたファッション関係者たちに食べてもらったら、すぐにオーダーが入ったという。「それが2019年の秋のことです。その後しばらくしたらパンデミックで日本から人が来なくなってしまったんですけど、口コミで聞きつけたフランスのブランドからも注文が来るようになりました」。最初はファッションウィークの時期にブランドのショールームへ届ける仕事が中心だったが、次第に雑誌、広告などのファッション撮影の現場へのケータリングも頼まれるように。

ジャン=ポール・ゴルチエのショールームにて。

白石さんのケータリングは「見た目もきれいでおいしいビーガン食」。パリへ来てからそれ以前とは食生活がガラリと変わったことで体調を崩し、8年前に大病を患ったのを機に、自身の食生活をビーガンに切り替えた。「ビーガンって、日本だと彩りがなくて寂しいイメージだし、こっちだとどんぶり飯の上にキャベツやにんじんがわさっと載っている大味なものがほとんど。そうではなく、蓋を開けた時にわーっ、と喜んでもらえるようなものを提供したいなと思ったんです」と話すように、彩りの美しい白石さんのお弁当は、この写真で見るだけで気分が上がる!「おかずの向きとか、詰め方のちょっとしたことにもこだわりがあって、本当は全部自分でやりたいんですが、さすがに50個以上のオーダーとなるとそうもいかなくて……」。色がきれいなカブやカリフラワーなど、フランスならではの食材を、日本の調味料で味付け。コロッケやはさみ揚げ、ベジ肉ダネを使ったミートボールなど、ボリュームのあるおかずも必ず入れるので満足度も高いのだとか。「ベジ肉ダネはオリジナルで、挽肉の代わりにキビやちょっと硬めに炊いた玄米、旨味を出すためにキノコを入れています。これで作ったミートボールは見た目では(ベジだと)分からないと思いますし、食べても気づかない人もいますね」。醤油麹や塩麹、甘酒など、白石さん手作りの調味料も使っているのだという。

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飾り切りやお花をあしらったデコレーションに心躍る!

ケータリングの仕事が軌道に乗り始めてから、白石さんには新たな夢が生まれた。「まだ何も具体的な行動にはうつせていないのですが、ビーガン居酒屋をやりたいと思っているんです。『深夜食堂』みたいな雰囲気が理想です。暖簾をくくってガラガラっと引き戸を開けてお客さんが入ってきて、店内にはコの字型のカウンターがあって、私はその中で割烹着姿でお料理を作る。人生相談をされたりしながら、出すおつまみはビーガンっていう。それをパリでやりたいんですよね」。ケータリング業を始めた時のスピード感や実行力をもってすれば、ビーガン居酒屋の夢もあっという間に叶えてしまいそうだ。