COLUMN

Women in Paris Vol.9
Hiroko Shiraishi(2/3)

東京での目まぐるしい暮らしを一旦リセットしようと、パリへ渡ることを決意した白石さん。とりわけパリという街に強いこだわりがあったわけではないが、「ロンドンやニューヨークに比べてのんびりしている印象だし、そこまで大都会でもない」という理由で選んだ。そういうわけで、その時点ではフランス語は全く話せず、渡る前に少しでも分かった方がいいなと思い、当時御茶ノ水にあったアテネフランセに数ヶ月通うことにする。「ただ、実際にパリへ来てみたら、そこで学んだフランス語は日常では使わない言い回しも多くて、あまり役に立たなかったですね。とにかく休みたいという気持ちも強かったので、パリへ移り住む前に1ヶ月半くらい、南仏のアンティーブという小さな街に休暇も兼ねて語学留学をしました。ここには日本人はいなくて、語学を学ぶ上ではいい環境でした」。パリへは、語学を学びながらのんびりと1年くらい滞在するつもりで渡ったのだが「生活してみると、公共の手続きがめんどくさいとか、融通が効かないとか、要領が悪いとか、いろいろあるんですけど、フランス人って他人に干渉しないし、そういう部分はとても楽で居心地がよかったんですよね」。結局そのまま今に至るまでパリで暮らすこととなり、パートナーを得て、現在は14歳の息子と10歳の娘と家族4人で暮らしている。

蚤の市で集めた古いレースや生地で作ったドレス。洋裁を学んだことがない、とは思えない!
フェザーやビジューを使った華やかなトップ。どこかアールデコ風のデザイン。

専門的にファッションを学んだ経験はないものの、裁縫や刺繍など、手を動かして何かを作るのは小さい頃から好きだった。そして日本にいる頃から古いハギレやレース、ビーズといったものが大好きだった。「なのでパリに来てから蚤の市に通うことにハマって、昔のドレスの裾の部分のハギレとかレースとか、たくさん買い集めたんです。なぜだかスレスレになったベロアの感じとか、色褪せたレースとか、とにかく好きなんですよね。今ではもう手に入らない素敵なアンティークの素材をどうにかできないか、何か形にしたいと思って、ドレスを作ろうと思い立ったんです」。たくさんあるハギレやレースなどのパーツを床に並べて、どれをどう組み合わせるかじっくり考える。頭の中になんとなくあったイメージとすり合わせができたら、そこからは一気に手で縫っていく。寝る時間も惜しんで作るほどに熱中し、気づいたら何十着ものドレスが出来上がっていた!「当時はSNSもなかったので、友人にこんなの作ってみたんだけど、と見せてみたりしたら、バイヤーをやっている友人が買ってくれることになって、東京のお店にも数点置かせてもらったりしたんですよ。古くて繊細な生地だからちょっと引っ張ると裂けたりするし、おそらく着ているうちに破れちゃったりすることもあると思うのですが、私はそういう感じが好きだし、破れたところもまたいいと思うから修正したりしない。シミや汚れも味わいだと思ってますし、そういうものを気に入ってくださる方が買ってくださいましたね」。この作風の延長線上で、白い羽やレース、パールなどを使って、友人のウエディングドレスを作ったこともあるという。「子どもが生まれてからは、なかなかそういったことに割ける時間がなくなってしまいました。ただ、もし今時間があったとしても、もうその時にその情熱は使い切ってしまったかもしれません(笑)」。そして今、白石さんの情熱はケータリング業に注がれている。