COLUMN

[ NEW ] Women in Paris Vol.15
Hitomi Takeuchi(3/3)

カリグラファーがレッスンも行っている専門店というのは、世界で見ても珍しいらしく、「メロディ グラフィック」には世界中からトップレベルのカリグラファーも訪れる。竹内さんはそういった人たちからも多くのことを学べる環境にある。「レッスンをお願いして受けてみると、教え方もいろいろで、それも勉強になることの一つです。それを自分が教える際に取り入れてみると、生徒さんの上達具合が変わったりして、手応えを感じますね」。7年ほど前からは、コロナ禍の時期をのぞいて、年に2回ほど日本に帰ってきた際にもワークショップを行っている。来年の3月末から4月にかけては、唐津、ソウル、東京、神戸を巡る予定だ。

 

ファッションメゾンの招待状の仕事も多くこなす。こちらはシャネルからの依頼で描いたもの。

カリグラファーとしての仕事は、主にお店の2階にあるアトリエで、また、レッスンもそこで行う。常にいくつかのプロジェクトが同時進行で、これまでに受けた依頼の中でも、本を一冊描くという仕事は大変かつやりがいのあるものだったとか。「メールでテキストと写真が送られてきて、テキストをカリグラフィーで手描きして、さらに写真を元にした水彩画も私が描いて、二つをまとめて一冊の本にしたいという依頼でした。その方が結婚して子どもが産まれるまでの物語だったのですが、おそらく将来お子さんに見せたいと思ってらっしゃったんじゃないでしょうか」。完全な休みの日というのはほぼなく、旅に出た時にも夜はロゴのデザインを考えたり、アイデアが思い浮かんだら書き留めたり。「夫も結構働く人ですね。実質、週に1日しか休んでいないですし、バカンスの時期は5日間ほどはまとめて休むのですが、一般的なフランス人に比べたら短いバカンスですよね」。

貴族の館、シュリー館、ヴォージュ広場はお散歩コース。

仕事ばかりしているように見て取れるが、趣味はハープに茶道、オペラやバレエ鑑賞も大好き。さらに美術館にも頻繁に足を運んでいる。「ハープは二十歳の頃からやっています。きっかけは、友だちの家で音楽を聴いていたら流れてきたハープの音にピンときたこと。日本ではグランドハープとアイリッシュハープの両方を持っていたのですが、グランドハープは大きくてこちらに持ってくることはできなかったので実家に置いてあって、パリに来てからアイリッシュハープを買いました」。日本で習い始めたとき、最初についた先生はフランスから日本へ初めてハープを持ち込んだ方のご子息で、そのあとは芸大のハープ科を卒業した先生に教えを乞い、今でもオンラインでの授業を受けている。「美術館には昨日も、生徒さんが行きたいとおっしゃるルーブルへ同伴して行ってきました。ミロのビーナスやモナリザなど、まずはここで観るべき作品を、そのあとイタリア絵画などを案内して、滞在したのは1時間ほどでしたが、すごく満足しました、と言っていただきました」

 

近所のルイ・フィリップ橋からセーヌ川を眺める。

好きだと思ったらすぐ行動に移し、目的に向かって一直線に進む。心の声に素直に従って動き続けることで運命を切り開き、憧れの地で生活の拠点と天職を手にした竹内さん。その好奇心とエネルギーが尽きない限り、多忙な生活からは解放してもらえそうにない。